本の紹介1『てぶくろ』ウクライナ民話
絵:エウゲーニー・M・ラチョフ 訳:うちだりさこ(福音館書店)
日本では来週の立冬(11/7)を前に、朝晩ぐっと冷え込んできているようです。手袋のほしい季節となっていることでしょう。
手袋といえば、絵本『てぶくろ』が思い浮かびます。
超ロングセラーな絵本なので、小さい頃に読んだことがあるという方も多いのではないかと思います。
『てぶくろ』は、旧ソ連で絵本化されたロシア語の原書が、東京・神田のナウカ書店に置いてあり、当時福音館書店編集者だった松居直氏の目に留まって、1965年に初めて日本で出版されました。実に今から60年も前のことです。
『てぶくろ』の魅力は、想像的なリアリティにあります。現実的に考えれば、厳冬の森にあのような動物たちがいるはずはないですし、おじいさんの落とした手袋にネズミ、カエル、ウサギ、キツネ、オオカミ、イノシシ、クマなど7匹もの動物が一緒に入れるはずもありません。
おまけに、1匹ずつ動物が手袋に入る度に、窓やベランダ、煙突や床下など増えていき、皆が入れる暖かい隠れ家に変貌していきます。
もう一つ注目すべきは動物たちが着ている衣服です。
カエルとキツネが着ているのは、刺繍のあるソロチカです。ソロチカは、真っ白なフワッとした感じのシャツに、ウクライナの伝統的な青や赤の刺繍がほどこしてあるのですが、これは魔除けの意味を持つウクライナの民族衣装だそうです。またカエルとキツネが身につけている格子柄の巻きスカートは、プラフタというウクライナ独特のもの。
オオカミがシャツをズボンの中に入れて着ている着方や、幅の広いズボン、腰に巻いている幅広のベルトのような織布もウクライナのアイテムだそうです。イノシシが被っているツバ広の藁帽子(麦やその他の植物を素材として編んだもの)は、かつて農民が農作業の時に被る習慣があったようです。
現在の社会情勢を見る時、ウクライナの子供たちが、一日も早く家族のひざの上で、安心して絵本が読めるようになることを心から祈るばかりです。
最後に…私の些末な思い出を・・・。
私がこの『てぶくろ』の素晴らしさを知ったのは大学4年のときでした。たまたま大学で絵本論の特別講義があり、深い考えもなく聴講しました。そこで『てぶくろ』などの絵本における「絵の読み方」を教えていただき、絵本というものの奥深さを知ることが出来ました。その時の講師が、『てぶくろ』を日本に紹介した松居直氏でした。温和な、それでいて人を引きつける話し方、絵本に対する熱い思いは、深く深く私の心に残りました。その松居氏は2022年11月2日、老衰でお亡くなりになりました。
